インタビュー

「揺るぎない想いを自分の手でかたちに」|かなしみぽすと 中嶋雅美さん

ASHIYA RESUME ロールモデルを見つけるインタビュー

芦屋を拠点に活動をする女性たちのさまざまな暮らし方や働き方についてお聞きするロールモデルインタビュー。

今回は、グリーフ(悲嘆)を抱えた方たちが悲しみを出せる場づくりを行っている「かなしみぽすと」の代表を務める中嶋雅美さんに、活動を行うことになったきっかけや、立ち上げるにあたって苦労したことについてお話しいただきました。

ご紹介

「かなしみぽすと」の代表を務める中嶋雅美さん。結婚後、転勤族の妻として転居を繰り返しながら子育てに専念していましたが、子どもの小学校入学を機に少しずつ仕事を始め、40代で放送大学に入学し、認定心理士の資格を取得します。その後、学びを続けるために上智大学グリーフケア研究所に入学。研究修了と同時にかなしみぽすとを立ち上げました。現在、代表を務める傍らSDGsのファシリテーターとしても活動されています。

人の人生に関わるために、自分自身が成長し続ける

出産直前まで働いていましたが、子どもが産まれてからは、5〜6年は家にいました。娘が小学校に入ると、アルバイトから少しずつ仕事に復帰しました。同時期にお友達がDVを受けていることを知って、大事な人がつらい目にあっているということがとてもつらかったんです。自分に何ができるだろうかと思った時に、人の人生に関わるのはとても重いことだと感じました。傷ついている人を今以上に傷つけないためにはどうしたらいいのだろうと、自分の在り方を真剣に考えました。

 

それからは、これまでの自分の知識・経験や価値観だけで安易に関わっては駄目だと、手あたり次第に学んで、犯罪被害者支援や傾聴のボランティア活動にも携わりました。同時に、もっと本格的に勉強がしたいという気持ちが強く湧いてきて、授業料を貯めて通信制の大学で心理と教育を学びました。職を得た大学の相談室では、大きな喪失体験をした学生さんや職員の方々と接し、悲嘆を抱えた方のそばにいるにはもっと専門的な知識を身につけないと申し訳ないという気持ちになりました。その後、グリーフケアを専門的に学ぶために上智大学グリーフケア研究所に入りました。

 

グリーフケアは、一般的には死別の悲しみに対するケアと捉えられがちです。しかし、生きている上では誰もが何らかの悲嘆者です。人から見たら『なんだそんなこと』って思うようなことでも、当事者にとってはとても悲しいこと。抜けないトゲのようなものを抱えているかもしれません。社会的な構造として、弱みを見せてはいけないとか、つらいことは人に言うものじゃないという風潮がある中で、悲しいことを声に出しても絶対に安心できる場所があったらいいなという思いがありました。

 

かなしみぽすとのリーフレット

活動場所がないなら自分でつくればいい

研究の修了後、学んだことを生かした活動がしたいと思っていましたが、研究所自体も生まれたばかりでしたし、実践する場の確保ができませんでした。修了生の同期の人たちに何か一緒にしませんかと手紙を出したのですが、手が挙がりませんでした。 落ち込んだけれど、せっかくグリーフケアについて学んだからには何かしたいという気持ちがあったので、それならば独りでできることからやろうと思い、最初は修了生を対象にセミナーを開いて、継続した学びの場を設けることでスキルを積みました。

 

研究所の先生方に講師をお願いして、自分でチラシを作り、参加費の中から謝礼をお渡しし、会場費用を払って活動を続けました。回を重ねるうちに、修了生の中から活動に関心を持ってくださる方も出てきて、メンバーが少しずつ増えていきました。

優しい表情で語る中嶋さん

どんな形でもいいから手探りで前に進む

活動の中で苦労したことはたくさんあります。当時はグリーフケアという言葉が浸透しておらず、公的機関やボランティア活動の支援組織などに相談しても、なぜそのような暗い活動をするのかと、なかなか理解してもらえませんでした。「何がしたいの?」「どんなゴールを目指してるの?」と聞かれても上手く答えられなくて、ションボリして泣きながら帰ったこともありました。

 

ですが、かなしみぽすとのような場所は絶対に必要なんだという気持ちだけは揺るがないものとしてあったので、不思議とやめようとは思いませんでした。目指すゴールがなくても、どんな形でもいいから、手探りでやっていこうと思いました。

 

グリーフを抱えた方を対象に活動することは薄氷を踏む思いでしたが、メンバーとともにできることを丁寧に積み重ね、設立5年目には第44回産経市民の社会福祉賞を受賞することができました。進む方向は間違っていなかったと心底ホッとしました。この賞を頂けたのは一緒に苦労してくれたメンバーや、ご協力くださったたくさんの方々のおかげです。

 

設立5年目には第44回産経市民の社会福祉賞を受賞(2019年)

誰かにとって必要な場所として、寄り添うように存在しておきたい

設立8年目となる2021年はメンバーを講師とした4回連続講座を開いて、各回の定員50名がすぐに埋まりました。また直近の公開講座にも約80名の方が参加されました。コロナ以前は近畿圏にしかPRしていなかったのですが、コロナ禍の2年間はZoom開催にしたので、全国からの申込みがありました。終了後のアンケートには思わず手を合わせたくなるような声がたくさん届きます。満足度も非常に高く、人ってこんなに変わるんだと驚くくらい参加者の表情が最初と最後で違います。かなしみぽすとのような場所が必要だということを、参加者の方が教えてくださるのです。

 

「かなしみぽすとをもっと多くの人に知ってもらいたいですね」と言っていただくことがありますが、私たちはどんどん大きくしていきたいとも、していけるとも思っていません。

 

自分たちにできることは本当にわずか。誰もわかってくれない悲しみだったり、そんなことで悩んでるのって言われるのが怖かったり、周りが心配するから人に言えなかったり。そんな時に悲しみを出してもいい場があるのだということが、必要としている人に届けば嬉しいし、これからも地道に活動していければそれでいいのです。これまでも自然と広がってきました。活動を知ってくださった方が、誰かのかなしみぽすとのような存在になってくださることが一番良いと思っています。

 

ASHIYA RESUME salonで参加者に活動内容や人生観を語る中嶋さん(2021年12月)

過去の私へ届けたいメッセージ「あなたがいてくれて本当によかった」

振り返ると、行動してよかったと思えるし、何の後悔もありません。こんな幸せなことってないと思います。今の私がいるのは、あの時のあなた(私)がいたから。私の人生の中に、立ち上げると決意したあなたがいてくれて本当によかったと心から思っています。

 

今、つらい思いを抱えている人たちも、生きてきた自分に対して『あなたがいてくれてよかった』とそれぞれが思えたら、素敵だなと思います。

 

 

 

 

 

 

 

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