インタビュー

人生をかけたい事業に出会った会社員の私が選択したパラレルキャリア 株式会社BeLiebe志賀遥菜さん

ASHIYA RESUME ロールモデルインタビュー

芦屋や芦屋周辺で活躍するさまざまな起業家や女性たちの言葉をお届けしているロールモデルインタビュー。

今回は、外資系消費財メーカーに勤めながら起業し、株式会社BeLiebeで卵子数検査キット「EggU(エッグ)」の開発とサービス構築を行っている志賀遥菜さんに、パラレルキャリア※を選択した理由や、会社員、そして起業家としてのワークライフ・バランスについて、お話しいただきました。

インタビュー実施日|2022年12月

(※キャリアの開拓を目的として複数の仕事(ボランティアや趣味を含む)を行うこと)

(ご紹介)

外資系消費財メーカーに勤める傍ら起業し、卵子数検査キット「EggU(エッグ)」の一般公開に向け準備を進めている株式会社BeLiebeの志賀遥菜さん。大学時代はがんの研究に没頭する一方で、論文のための研究に違和感を抱いていたと言います。そんな折、研究と社会をつなぐことができる産学連携という言葉に出会い、志賀さんの意識は大きく変わり始めます。大学卒業後は外資系消費財メーカーで社会やビジネスを学びながら、起業について勉強。その後、女性のキャリアとライフの両立という自身の悩みに起因した、人生をかけたいと思える事業に出会い、パラレルキャリアという道を選択します。パラレルキャリアにたどり着くまでの経緯について、志賀さんにお話をお伺いしました。

自分のやりたいことを実現する方法がパラレルキャリアだった

新卒で消費財メーカーに入社し、現在、入社6年目です。入社5年目の2021年に株式会社 BeLiebeを設立し、パラレルキャリアをスタートしました。

パラレルキャリアを選択した理由はいくつかありますが、一つはリスクヘッジです。「EggU」はクラウドファンディングを始めたところで、まだ売り上げはありません。自分の貯金をBeLiebeの資金に充てたり、資金調達をしたり、経営を続けていく手段は他にもありますが、やはり毎月の給料があるということは、少なくとも生活面でのリスクヘッジになります。

もう一つは、パラレルワークとして働くことが、自分の事業にも勤めている会社にも、双方に良い影響をもたらすからです。勤め先の職種柄、企業の社長さんや決裁権限をお持ちの方と商談させていただく機会が多いのですが、自分で事業をしていると、経営者としての視点や譲れない点などがわかるようになります。だからこそ、本当の意味でwin winのお取引ができたり、両社の関係性構築がうまくできるようになったりと、勤め先のパフォーマンスが上がるようになりました。

さらに、勤め先は外資系企業なので、日々の仕事を行う中で、シンガポールやタイ、マレーシア、中国、韓国、インドなど、アジアの他の国の考え方に触れることができるので、グローバルな視点でものごとを見ることができます。

 

大企業に在籍しているからこそできることもたくさんあるし、ダイバーシティに関しては先進的な会社なので、学ぶことがとても多いです。

このように、パラレルキャリアを実践していることによって、相互に良い影響があります。

一方で苦労することや、ストレスになることもあります。BeLiebeの仕事は、平日は会社員としての仕事が終わってからと、土日にしかできません。そうなると、プライベートな時間があまり取れないので、無意識のうちにストレスが溜まっていることもあります。

「EggU」は、今はまだクラウドファンディングの段階なのでまわすことができていますが、一般公開してからは、自分1人でできることはより限られてくると思っています。現在、アウトソーシングも含めて、チームには7人ほど在籍しています。顧客ができ、日中にカスタマーサポートのようなオペレーションが必要になってくれば、スタッフを増やし、適任者をあてがう必要があると考えています。より大きな組織をつくっていく難しさにも直面することになりそうです。

いつかは、チームを構えて組織として動かしていく日がくるのかもしれませんが、当面は、できるだけどちらもやり続けていきたいなと思っています。

「研究と社会をつなげたい」という思いを確信した瞬間

私は、大学時代にがんの研究をしていました。なぜ正常細胞が、がん細胞になるのかというメカニズムの研究です。将来的には、がん患者さんのために自分が研究して開発したものを、薬や治療方法として届けたいという思いを持っていました。

でも、横を見れば、論文のために研究している人たちばかり。今なら、基礎研究は論文を書かない限りは誰にも伝わらないし、薬にもならないので、仕方がないことだと思えるのですが。当時の私は、患者さんとの距離が遠すぎることに、すごくモヤモヤを抱いていました。

そんなときに、たまたま大学の授業で、「研究と社会には大きな溝がある。この溝の架け橋になるのが、産学連携である」という話を聞き、「これだ!!」と思ったんですね。その先生のアントレプレナーシップ※という授業に、実験の合間に潜り込んで、単位も取れないのに勝手に授業を聞いていました。授業の中で、大学発の研究開発ベンチャー企業の代表の講演を聞いたときに、衝撃を受けました。
(※起業家(企業家)精神)

研究が好きな方が起業し、その成果が世の中に実装されているという現実を目の当たりにしたのです。何よりも、お話されていた方の目がすごく輝いていたんです。私も研究や技術を、社会の役に立てたいと思いました。

 

でも、自分の研究を社会実装するために、今すぐに私ができることはあるかな?と考えたときに、やはり社会実装までにはすごく遠いと感じました。もしかすると、社会やビジネスのことを勉強することができたら、研究と社会を繋げられる役目になるかもしれないと思い、社会側を勉強するために、今の会社(消費財メーカー)に入りました。

回り道をしたからたどり着いた、人生をかけて成し遂げたいこと

このような経験があったので、入社してからも、研究開発ベンチャーにはずっと興味がありました。入社3年目のときに、母校の大学で「ゼロイチ」を生み出すためのアクセラレーションプログラム※1に参加することを決意。ずっと東京開催だったのですが、コロナ禍でオンライン開催になったので、関西から申し込みました。

世の中の課題に対する解決方法を考えて、それを形にしていくというプログラムだったので、参加するのにアイデアは必要ありませんでした。もちろん、参加したときは、「EggU」のアイデアは頭の片隅にもなかったです。

最初に、アメリカのスタートアップ※2ベンチャーを30社調べるという課題がありました。なかなか大変だったのですが、この課題のおかげで、自分の好きなカテゴリーが「バイオテクノロジー」や「ジェンダー平等」だということを把握することができました。

興味はあるけれど、事業化するには技術的に難しいと悩んでいたタイミングで、当時の日本ではまだ知られていなかった、フェムテック※3という言葉に出会いました。

私は生物科学の分野で研究もしていたし、当時は、自分のキャリアとライフの両立をどうしようかと悩み始めた時期でもあったので、自分の悩みを課題にすることで何かできるかもしれないと思い、フェムテックというエリアに絞りました。

(※1短期間で事業を成長(スケール)させるためのプログラム)

(※2革新的なビジネスモデルによって社会にイノベーションを生みだすことで、短期間で急成長を遂げる企業)

(※3フェムテック(Femtech)とは、Female(女性)とTechnology(技術)をかけ合わせた造語。女性の健康課題をテクノロジーで解決へと導く製品やサービス)

「EggU(エッグ)」は少量の血液で、卵胞から分泌されるホルモンであるAMH(抗ミュラー管ホルモン)濃度を計測し、卵子の数を測ることができる。キャリアを頑張りたい女性たちが、早期に自分の体の状態を知ることで、人生をより豊かにして欲しいという願いから開発されたキット。

そんなときに、たまたま同じグループだった方の奥様で、産婦人科医の方と話をする機会があり、AMH(抗ミュラー管ホルモン)の存在を教えてもらうことができました。産婦人科医からすれば珍しいものではないと思うのですが、私にとっては発見になりました。AMHを利用することで、何か事業ができそうだなと思ったのが、「EggU」の始まりです。

「夢がある限り、何でもできる」

「EggU」に出会う前は、自分が本当にやりたいことはなんだろう?とずっとモヤモヤしていました。

入社3年目の時に、海外勤務という選択肢もありましたが、結婚や出産というライフプランを組み込んでみると、出産適齢期が重なることがわかり、積極的に手を挙げることができませんでした。そんなときに、参加した母校の大学でのアクセラレーションプログラムで、これをやりたい!と思えるものに出会えたことは、すごく幸せなことだと実感しています。

今後は、自分の会社で「EggU」や、その先のサービスを作って展開していきたいですし、勤めている会社では、ダイバーシティに関わることをしっかりと学んで、社会に還元していきたいと思っています。

私は今、二つをパラレルキャリアで実践していますが、もしかしたら今後は違うアプローチがあるかもしれません。今後は、三つになるのか、一つに絞るかはわからないけれど、毎回、一番効果的な方法を探っていきたいと思っています。今は忙しいですが、とてもいいバランスです。

今後は、結婚や出産で自分のライフが変わって、バランスが変わることがあるかもしれません。結婚や出産も、自分の経験として、「EggU」に生かしていくつもりです。ライフステージの経験を増やしながら、「EggU」の顔になっていけたらいいなと思っています。

夢がある限り、何でもできると信じて。

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