インタビュー

「何歳になっても一歩踏み出せば世界は広がる」芦屋市シルバー人材センター副理事長 恩田泰子さん

ASHIYA RESUME ロールモデルを見つけるインタビュー

芦屋を拠点に活動をする女性たちのさまざまな暮らし方や働き方についてお聞きするロールモデルインタビュー。

今回は、芦屋市シルバー人材センターの副理事長であり、同センターの独自事業として展開している「小町カフェ」や主催する「キッチンカフェなりひら」でそれぞれ代表・副代表を務める恩田泰子さんに、活動を行うことになったきっかけや、地域コミュニティづくりへの想い、定年後の働き方についてお話しいただきました。

 

(ご紹介)

定年後、芦屋市シルバー人材センター(以下、センター)に登録したことをきっかけに、「小町カフェ」を立ち上げ、その経験を生かして「キッチンカフェなりひら(以下、なりひら)」の発足メンバーとなり、2つのコミュニティカフェの運営に携わっている恩田さん。地域の人が誰でも気軽に集まれる居場所づくりを目指しています。センター登録者の就業先にもなっているカフェとレストランには、同じ想いの仲間が集まり、定年後でも楽しく働ける場所として、センターのイメージアップにもつながっています。パソコン好きが高じてパソコン研究会でパソコンを教えたり、教員免許を生かして小中学生に算数を教えたりと、カフェ以外にもさまざまなことにチャレンジされています。

定年後、仕事が見つからない時に見つけた新しい場所

転勤で横浜に住んでいた時に阪神淡路大震災があり、芦屋に残してきたマンションが全壊して建て替えないといけなくなり、ダブルローンに。いろいろな仕事をしてきましたが、定年後も働けるうちは働きたいと思っていました。定年を迎えハローワークに行ったけれど、リーマンショックが重なって、仕事は全く見つかりませんでした。「人生終わった」と思っていたのですが、7歳上の夫が先にセンターの会員だったので、私も登録してみることに。すると、入会した途端に「若い若い」と言われて光が射したようでした。

一般的なシルバー人材センターの仕事は企業や行政からの受託事業が多いのですが、芦屋市のセンターには3人のメンバーを集め、会員が自分の特技や資格を生かして企画提案すると事業を行える独自事業があります。企画が通るとセンター支援の下、活動することができます。入会当時、会員同士が気軽に集える場所がなく、若い頃に漠然とヨーロッパの貴族を連想させるサロンに憧れていたこともあり、集いの場所を作りたいと思いました。2017年に独自事業の制度を利用して、喫茶店「小町カフェ」を立ち上げることにしました。

地域の方の憩いの場になるようなサロンに

最初は、事務所の一部屋で週に何回かの営業ができればと思っていましたが、センター隣のビル1階に空き店舗があり、タイミング良く「地域就業創出・拡大事業」として補助金を頂けることになり、そこを改装して全部で12席のカフェにしました。説明会を開いてコンセプトに賛同してもらえる方を募り、スタッフを集めました。

体に良いものを提供したいので、有機のコーヒーや無添加のパンを出しています。コーヒーを飲みに来るだけではなく、誰かと話したいという方や、センター会員の打ち合わせにも使ってもらっています。サークル活動などの貸し切り利用もできます。無料のイベントや、500円プラス飲み物代で利用できる講師付きのミニカルチャーもあります。今は新型コロナの影響で7~8人しか入れませんが、少しずつお客さんは増えてきています。オープンから4年経過し、随分と形になってきました。

芦屋市民センター内にある「キッチンカフェなりひら」は独自事業ですが、芦屋市シルバー人材センターの事業としての位置づけです。半年ほど空き店舗になっていたので、施設側の芦屋市民センターの新しい店が入って欲しいという思いと会員としての就業の場を増やしたいというセンターの思いが合致し、2020年にオープンすることになりました。当時、センターで理事を務めていたのと、カフェ立ち上げの経験者ということもあって、プロジェクトメンバーになりました。

オープンまでの準備は、小町カフェのスタッフ中心に、新たにコンセプトに賛同してくださる会員さんと一緒に行いました。今は副代表として、ホール係やシフトを組んだり、メニューやホームページ、就業報告書を作ったりしています。小町カフェより規模が大きくて一般のお客さんが多いので、地域の方の憩いの場になって欲しいと思っています。

兵庫県シルバー人材センター協会の会員拡大セミナーでの好取組事例発表の様子(2021年10月)

シニア世代は人材の宝庫、定年後もまだまだ楽しく働ける

今は、理解してくださる方と一緒に仲間として働けることが本当に楽しいです。小町カフェは独自事業なので、立ち上げ当初から3年間は補助金を頂いていたのですが、今は家賃と材料費の一部助成のみなので現状はボランティアに近い形で活動しています。それでもスタッフからは「ここに来て働けることがありがたい」と言って頂けます。小町カフェのスタッフは18人ほど、なりひらは30人ほどいます。働きたいと手を挙げてくれる方が常にいるのはありがたいです。

経営の悩みもあります。なりひらは営利第一ではなく地域への貢献も目的とし、コロナ禍の下にオープンして1年半ぐらいですが、まだ黒字にはなっていません。できるだけ安心・安全にこだわった食材を使って丁寧に作った美味しい料理を出すことでお客さんが増えると思っていますが、やはりコストはかかります。

センターの皆さんの財産なので、どうすればお客さんが増えるかを皆で考え、見直すべきところは見直し、少しでも赤字を減らして黒字にもっていきたいと思っています。経営の方向性に対してはいろいろな意見があって、スタッフ以外の会員さんたちの理解を得ていくのは難しいのですが、続ける理由もあります。

入会した9年前はセンターの会員と言えば、歳をとっても働かないといけない人の集まりだと思われていました。小町カフェやなりひらで私たちが生き生きと楽しそうに働くことは、良い宣伝になります。その姿に地域の方が共感してくれたら、「まだまだ元気で頑張ろう」と思ってくれる方がいるかもしれません。お金には変えられない効果があると私は信じているのです。

人生100年だとしたら60歳は折り返しです。私たちの世代で一歩踏み出したい方はセンターに登録してもらえれば世界が広がると思います。いろいろな知識と経験を持った方が集まってくるので人材の宝庫です。家にいるよりも、人に出会える場所があれば、話をしているうちに意気投合して新しい事業が生まれるかもしれません。

「自分の健康や生きがい、地域や生活のために。シニア世代の働き方は多様化している」と語る恩田さん

過去の自分へ伝えたいメッセージ「人生に無駄な経験はない」

人生に無駄な経験はないということを実感しています。学生の頃、喫茶店のアルバイトをした経験が今にもつながっているし、結婚前は公文の先生や家庭教師、子どもの絵本専門店などいろいろな職種を経験しました。絵本専門店では毎月、文学・音楽・絵画講座を実施していたので、小町カフェで開催するイベントにノウハウが生かされています。趣味でプログラムを組んでいたことも、ホームページやメニューを作ったりすることに役立っています。その時は無駄かもしれないと思っていても、必ずどこかで役立つ時がくるのです。

大切だなと思うことは、やりたいと思ったことはとにかく声に出して言うことです。声に出したことにより自分自身が自覚していくので、実現していきます。同じ思いの仲間が集まってきます。一人では絶対にできないことでも仲間がいればできるのです。黙っていたら何も進みません。

今後は不登校やいじめで悩んでいる方、ひとり親家庭のお子さんやお母さん、居場所がないと感じている人たちに来てもらえるようなコミュニティサロンや子ども食堂ができたらいいなと思っています。息苦しさや生きづらさを感じている人たちが気軽に集まれる優しい場所として、地域コミュニティのモデルになれればいいなと願っています。

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