インタビュー

「育児と仕事のはざまで悩む自分も間違いではない」|フォトグラファー 荒川明日香さん

ASHIYA RESUME ロールモデルを見つけるインタビュー

芦屋を拠点に活動をする女性たちのさまざまな暮らし方や働き方についてお聞きするロールモデルインタビュー。

今回は、フォトグラファー荒川明日香さんに活動を行うことになったきっかけや、育児と仕事の間で揺れる想いについてお話しいただきました。

(ご紹介)

フリーランスのフォトグラファーとして活動されている荒川明日香さん。結婚後、子どもが生まれて仕事を手放したことで自分を表す手段がなくなりモヤモヤした日々を過ごします。日常の中で子どもたちの写真を撮影するうちにママ友の評判を呼び、七五三や誕生日の撮影を依頼されるように。現在は口コミでのつながりから、イベントの撮影やフォトボランティア、ママフォトグラファー同士のユニット活動などをされている荒川さん。育児と仕事のバランスに悩み、時には仕事の量を調整しながら、ご自分のペースで日々前進されています。

子どもが生まれても仕事は続けられると思っていた

大学院を卒業して就職後は、今思えばバリバリの企業戦士でした。大企業に経理システムを納め、メンテナンスやプログラムを行っていました。評価をしてもらえて充実していましたが、本当にやりたいことなのかと疑問に感じ、転職しました。契約社員で地域情報サイトの編集の仕事に就いて、手配が間に合わないときは、代打でライターや撮影などもしていました。

結婚して子供が生まれることになった時、産後も在宅で仕事を続ける予定でした。パソコン作業がほとんどだったので、赤ちゃんが泣いていたら背負って仕事をすればいいと思っていたからです。実際に生まれると、想像と全く違いました。

置いたら泣いてしまうような敏感な子で、アトピーやアレルギー、喘息にもなりました。風邪も毎月引くので、いつまでに何ができるかが確約できない状況が続いて、とうとう仕事を中断。幼稚園入園くらいのタイミングで再開する予定だったのですが、下の子が生まれたこともあって、なんとなく仕事の話がなくなってしまいました。

当分仕事のことを考えられない状況だったので、「あきらめがついていいや」と割り切りました。その分、育児を思いきり楽しむようになりました。

下の子と同学年のママグループができて、一緒に遊ぶようになりました。常にスマホとミラーレスの小さなカメラを持ち歩いて、自分の子や他の子の写真を撮るようになったのです。写真を夜に送って、大変だった一日を「こんなことあったね」とみんなで笑い合うのがとても楽しかった思い出になっています。

 

「ひそかに人気☆『芦屋どこでしょうシリーズ』より、打出駅近くの踏切」 写真:荒川明日香

育児を思いっきり楽しんだことでフォトグラファーへの道が開けた

そのうち、ママたちから七五三やバースデーフォトの写真撮影を頼まれるようになりました。お金をもらわずに撮っていたのですが、「払わせてくれないと心苦しい、頼みづらい」と言われて、お値段を格安でつけるように。頼まれたからにはちゃんと撮りたかったので、下の子が2歳の時に託児付きのママカメラマン養成講座に入りました。お値段がそれなりにするので迷ったのですが、もし仕事にしなくても一度身につけたら残るものだと思ったし、長男の小学校入学を機に、次にすることを考えたいという時期でもありました。このとき、初めて本格的な一眼レフのカメラを購入しました。カメラを仕事にするきっかけにしてくれたママ友には感謝しています。

育児とバランスを調整しながら柔軟に進んでいく

養成講座を受けた後しばらくは、自信をつけるためにお友達を撮らせてもらっていました。起業ママ向けのセミナーなどを参考にしてホームページも作りましたが、自分が思っていたよりもお客さんに来ていただいて、想像以上に仕事のボリュームが増えてしまいました。両立しているお母さんたちはいるのですが、私はまだもう少し子育てに比重を置いた時期を続けようと思い、ホームページのリンクを一旦削除し、口コミをメインに仕事を絞るなどをして、量を調整しました。

上の子が小学校に入学したら少しは子育てが楽になるかなと思っていたのですが、思っていたほど楽にはなりませんでした。本当に蓋を開けてみないと何が起きるのかがわからないのが育児で、仕事とのバランスが難しいです。今日はこの配分だと思っても、次の瞬間にはまた変わっているし、子どもや自分の状況もその時々で変わってくるので、「決めない」ということを一番大切にしています。

今は人のつながりや口コミで来たお仕事をメインとして活動しています。リトミック※をされているママさんの教室風景を撮ったり、お子さんのコンサートを撮ったり。ママ友がフリーマーケットのイベントを開いた時に、フォトブースを隅っこの方でやらせてもらって、そのつながりでフリーペーパーの表紙を撮らせていただいたこともありました。最初は仕事にするつもりはなかったし、今も仕事になっているかは半信半疑ですが、人とのつながりでここまでやってこれました。

※リトミック…音楽を通じて体を動かすことで子どもの表現力を育む教育法

 

「カメラは限りなく育児に近くて、写真を撮ることも育児の一貫」と語る荒川さん。

私だから切り取れた瞬間に見出した、写真を撮り続ける意義

写真を撮っていてよかったなと思った出来事があります。幼稚園の運動会の演目である「空中逆上がり」に向け、一生懸命練習していた仲良しのママ友さん親子がいました。運動会当日、お子さんはとても緊張していて、お母さんも心配しながら見守っていました。お母さんの目には終始、緊張ばかりしていたように映っていた子どもさん。実は写真に撮ってみると、すごく笑っていたのです。お母さんに写真を見せると、「私まで緊張していて気がつかなかったけど、こんな表情をしていたなんて。撮ってもらえてすごく良かった。嬉しかった」と感謝されました。

育児をしていると自分の子どもの見えていない側面があります。でも写真だと、「こんな表情してたんや」とか「この後怒ってしまったけど、この瞬間はめちゃくちゃ笑ってたんやな」とか、見えていなかった一部を見られるのです。写真は誰でも撮れると思っていたし、上手な人もたくさんいると思っていたので、仕事にするかどうかも迷っていたけれど、そこに居合わせている私だから撮れる写真があることをそのお母さんから教えてもらいました。

 

「妹誕生!の記念写真」 写真:荒川明日香

過去の自分へ伝えたいメッセージ「子どものペース、自分のタイミングで」

フォトグラファーになろうと思っていなかった頃の私に、「子どものペース、自分のタイミングで。焦らなくていいよ」って言ってあげたいです。育児をしてみると、思い描いていた自分のイメージと現実は異なるし、周りから他の人と自分が違うように見られているしんどさもありました。息子に泥遊びを勧めても「汚れるから嫌だ」って言われたり、滑り台も滑ってくれなくて他の子に「危ないよ」って言ったり。おおらかなお母さんとしてのびのび育児をしたかったけれど、子どもは全然のびのびしてくれなかった。

育児は思い通りにならないとは思っていたものの、少しくらいは融通が利くだろうという思い込みが完全に崩壊しました。この思い通りにならない感じが体に染み込むまでにすごく時間がかかりました。

私の場合は育児で写真を撮ることで、たまたま自分らしさを表すことができました。育児や日々の家事には、その人の個性や特技がちゃんと滲み出ていると思います。その方が気づいてないだけで、毎日普通にこなしていることが実は他の人には全然できないことだったりします。お買い物上手であったり、ストックでパパッとご飯を作ったり。それぞれ何かは絶対持っているので、焦らなくていいと思ってほしいです。

フォトグラファーをしていて、一番良かったなと思うのは、いろいろな人と出会えて経験したことのない仕事ができることです。育児がきっかけとなり始めた写真ですが、カメラをやり始めたことで、育児をしている以外の自分も生まれたと思っています。育児でも仕事でも趣味でも、何か続けていれば自分を表せるものが見つかるのだなと感じています。

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